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『はじめまして、Mr.敦賀。ヘレン・アーウィンです』

翡翠色の大きな瞳に俺が映り、芸術品のような微笑を携え握手を求める。

『はじめまして、敦賀蓮です。お会いできて光栄です』

滞ることなく握手を交わし、微笑を返す。



監督の予告通り、カイン・ヒール = 敦賀蓮 と発表したのは1ヵ月前だった。
その事実は大きな、それはそれは見事な反響だった。
観たことのある人はもちろん、日本中が驚愕した。
日本映画の興行収入にトップテン入りしていたTRAGIC MARKERが、大差をつけてトップになったのは発表後わずか1週間後のことだ。
特に一番の反応があったのは、村雨くん先頭にTRAGIC MARKERのスタッフの面々で。
今シーズンのドラマで共演している村雨くんには早々に謝罪したが、「敦賀さんの演技力…怖いです」と言われてしまった。




周囲が湧き立った最中でも、俺の心は穏やかだった。
キョーコが俺の過去に揺るがず、今もこうして傍にいてくれる現実に。

俺とキョーコがコツコツと靴音を響かせ歩いているのは、社長の家の豪華な廊下だ。

「今日の呼び出し、内容を社長から聞いてますか?」

「いや、聞いてないよ?………でも、もしかしたら…」

そう言いかけたが、その先の言葉よりも目的地である大きな扉の前に着いてしまった。
彼女命名「セバスチャン」が中へと案内してくる。
中にいた人物に俺は「やっぱりか…」と呟いた。





『今日は妹さんじゃないのね』

きちんと話をするようにと与えられた社長宅の個室で、向かい合う3人。

『カイン・ヒールの正体を発表したからには来ると思ってたけど、随分と早かったな。
前回日本に来てから、まだ2ヵ月と経ってないよ?』

俺はヘレンの言葉には答えず、揶揄く微笑む。

『……妹さんの気が済んで、そろそろ頃合いなんじゃないかしらと思って。
でも、もう違う子ね』

呆れた、とでもいうようにフウと息をつく。

『……紹介するよ。カイン・ヒールの妹役で、俺の恋人の京子だ』

キョーコの腰を抱いた。

『え?カイン・ヒールの妹…って……』

『前回もお目にかかりましたが、京子です』

キョーコは丁寧なお辞儀をする。

『まさか…あの…妹さんなの?』

『はい、その節はご挨拶もせず失礼しました』

ニコリと微笑むキョーコの手をそっと握った。

『ヘレン』

未だ信じられない、というような彼女に声を掛ければヘレンもこちらを向く。

『待ってもらっても、ヘレンには帰らない。
俺は京子を離すつもりはないんだ。たとえ京子が望んでもね』

『クオン?』

『この子を愛してるんだ。
あの子以外は要らない』

『どうしっちゃったの?最近そんなセリフの撮影でもあった?』

『本心だよ』

『いやだ、私じゃなきゃ本気にしちゃうわよ?
貴方はそんなタイプの人じゃないでしょ?私はちゃんと貴方のこと理解しているわ。
貴方の愛はみな平等。でも、私はそれでも構わない。
本当に貴方を理解できるのは、私だけよ?その子なんかよりよっぽど以前から貴方を知ってる。
ね?私のところに早く帰って来て…』

お願い…と手を俺の腕に添え、懇願する。
たぶん……以前の俺なら、ヘレンの言葉は正しく、俺も首を縦に振っていただろう。

小さく嘲笑する。

『出会いは…京子の方が早いんだよ』

『え?そんな…はずないわ。だって…出会った時、貴方は12歳だった…』

『京子とは、10歳だった時に出会ってる』

その言葉に驚いたのはキョーコの方だった。
キョーコを見ればパチクリというように目を見開き、え?とか、は?と顔に書いてある。
その可愛い額に軽くキスを落とす。

『京都のとある河原で、会っただろ?』

微動だにしない彼女になおも話を続ける。

『俺のことを妖精と間違えていたじゃないか』

キョーコの驚愕の顔と意味のない言葉が部屋に響いた。
俺はヘレンに視線を戻し話を再開した。

『ヘレン、悪かった。
俺があっちを発つ時、君にきちんと別れを言うべきだったんだ。
もう君のところには帰れない。
長いこと片想いしてやっと手に入れた大切な人だ』

隣りにいる小さな肩を抱き寄せる。

『片想い…?クオンが?』

『付き合ってもいないのに、他の男に嫉妬したり牽制したりもした。
……今もか』

自嘲の笑みが零れる。
言葉にならないらしいヘレンの顔には、驚愕の色がありありと見て取れる。
次第に哀の瞳へとかわる。

『……クオンは…本気なのね?』

唇をギュッと引き締め、彼女の頬に雫が伝った。
俺は首を縦に振る。
短い沈黙の後、ヘレンは乾いた笑みを漏らす。

『本当はね、わかっていたのよ。
他の誰も貴方の特別にはなれないように、私もなれないんだって。それでもいいと思っていたの。
だって…私もなれないように、他の誰も特別にはなれないんだから。
だから、貴方がある日消えてしまった時、一言もなく置いて行かれたことも理解した。
ああ…終わってしまったんだ…って。
貴方は、とうとう特別な人を見つけてしまったのね…』

そう言い、フワッと懐かしい彼女の香りと共に緩く抱き締められた。
そして瞬く間に彼女は一歩離れ、キラリと濡れた瞳で微笑んだ。




社長宅からの帰りの車内は静かだった。
キョーコが今何を考えているのかが怖くて、前置きもなく話し出す。

「ごめん、キョーコ。コーンのこと、内緒にしていて」

「私の知ってるコーンは、黒髪に黒い瞳じゃないですよ?」

「…髪は定期的にミス・ウッズに染めてもらってるし、瞳はカラコンを使ってるんだ」

「大きな父は…先生のこと…だったんですね」

「うん」

それを最後に沈黙が流れる。
暫らくの沈黙の末に、急に大きな声で彼女が言った。

「敦賀さん!お腹空きましたよね!」

「え?」

そう言ってマンションに着いてすぐ、キョーコは料理を始めた。
間もなくして俺の前にデン!と置かれた料理は、俺の父が満足するのではないだろうかと思う程の量で。

ただ一言

「ヘレンさんが来なかったら、私はずっと…知らないままでしたかね…?」

そうニッコリ笑顔で食事を勧められた。

彼女の言葉を否定し、もちろん話そうと思っていたと何度か言ったが、
その後3回ほど同じ量の食事を出されたとき、俺は心の中でぼやいた。


「             」


その内容は、敢えて俺だけの秘密だ。




**********



Wish秘密編は完結です。
今回は『秘密』を一挙に公開しよう!のお話なので、誰もが想像したありがちな話で申し訳ないです。
もうこの際だから、久遠バレ、コーンばれ、坊バレ、ついでに今までのクオンの付き合い方まで、秘密は全部暴露な感じで盛り込みました。
次のWishのお話も構想を練っているので、今度はWishを忘れらさられる前にUPできたらなあなんて考えてます。
でも、その前に『空の青』の続きを次回UP予定です。

今までお付き合い、ありがとうございました♪


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2013.09.06 Fri l Wish l コメント (4) トラックバック (0) l top


ヘレンさんがアメリカへ帰ったのは、それから2日後のことだった。
滞在中ヘレンさんは、近衛監督に何度もカインへのコンタクトを頼んでいたようで。
敦賀さんや社長の言葉通り、監督はやんわりと断ってくれた。
お陰でその後彼女と敦賀さんは会うことなく、渋々といった感じでヘレンさんは帰米したのだ。



「敦賀さん、今日はスペアリブのスイチリエスニック煮込みです。ちょっとエスニックなお味にしてみたんです」

にっこりと微笑む私に彼が近付き、少しかがむとこめかみにキスをした。
テーブルには照り光るスペアリブに海老と帆立のセビーチェ、彩りの鮮やかなサラダやキノコのシチューが置かれている。
香しい匂いに、作った私のお腹が鳴る。
空腹中枢の壊死した敦賀さんには、この恥ずかしさはわからないでしょうね…うう。

2人で席に着きにこやかに食事をしていると、やっと忙しくも平穏な日々が帰ってきたと実感する。
食べ終わった後のコーヒータイム。
その憩いのひと時に、私は小さな声で聞いた。

「敦賀さん本当は、ヘレンさんと別れたくなかったんじゃないですか?」

「はあ?」

本当に予想外だったのか、危うく口を付けていたコーヒーを吹き出しそうになった彼。

「君は…まだ俺の事がわかってないのか…?」

瞬時に下がる外気と、大魔王の雰囲気。

「違います!違います!」

両手をブンブンと大きく振る。

「何だか…ヘレンさんは特別だったんじゃないのかなって…」

「やっぱり、さっぱりわかってないじゃないか」

グッと私の腰を引き寄せ、ソファに身体を沈めさせた。
その表情は冗談のような軽いものではなく、あくまで真剣だ。

「だって…日本へ発つ時、敢えて別れも言わずに、なんて。
本当は別れを言いたくなかったのかな…って」

普段の彼から、疑うべくもない愛情をもらっている。
だが、それは『今』だからで。
昔は彼女が好きだったのかと思うと、胸の奥がギュッと何かに掴まれたかのように痛くなる。
万人を虜にする容貌と演技力、魅惑の身体と敦賀さんへの愛情。
世界中の誰に聞いても、誰しもがヘレンさんを推すだろうだろう。
だって…本当に魅力的なひとだもん。
いずれは敦賀さんも私から去って行ってしまう。そうしたら彼女の言う通り、彼はヘレンさんのところへ帰ってしまうのではないだろうか。

『今』の愛情は、私も信じている。
でも………この内からくる不安を、どう言い表せばいいのかわからなかった。

怒りに燃える彼の瞳を見ながら、この気持ちをこれ以上怒らせずに聞いてもらう方法を考えた。
『寝言』の件から、何でも話そうとお互い約束したのだ。

ふと、怒りの視線は影をひそめ、彼が横を向いた。

「敦賀さん?」

「……忘れてたんだ」

「何をですか?」

彼は逸らしていた視線を戻し、哀しい笑みを浮かべ言った。

「俺の特別は君だけだ。
ヘレンは特別じゃない。他の誰も、俺の特別にはなれない。
これからも、ずっと」

柔らかな唇が触れ合う。
軽い触れ合いの後、敦賀さんは話を続けた。

「あの時は、身動きすらとれなくて…
社長の言葉に、とるものもとりあえずアメリカを発った。
そんな中、俺は恋人だったはずのヘレンの存在なんて…忘れてたんだ」

酷い男だろう?と言いながら、自虐的な笑みが向けられた。

「昔の俺の中の『恋人』なんて、その程度でしかなかった。
それが普通だと思っていた。キョーコに恋するまで」

敦賀さんの大きな両手が私の頬を挟み込む。

「この歳で…って思うかもしれないけど、俺の初恋は君なんだ」

ああ、そうだった。
鶏の『坊』に言っていた敦賀さんの言葉を思い出す。
彼は私に、しっかり「恋とはなんぞや」と問うていたではないか!

ーーーーーーー!!

私はここである事に気が付いてしまった。

彼がせっかく、私だけが特別で、ヘレンさんをはじめとする以前の恋人達に恋心などなかったと、感動すべき甘い言葉を贈ってくれているというのに。
私ときたら、今までの胸の疼きもすっかり吹き飛んでいた。


頬を包み再度唇を重ねようとしている敦賀さんから飛び退く。
そのままソファの下に正座し、指を揃え、額がラグに擦れるほど深々と頭を下げた。

「す!すみません、敦賀様!わたくし、まだ言ってなかった事がございます!」

突然のことに茫然としている敦賀さん。
その彼が、この後の私の言葉に驚愕と羞恥で絶句したのは言うまでもありません。




「あの…鶏の中身は私です」



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2013.09.04 Wed l Wish l コメント (2) トラックバック (0) l top


絡みつく腕が寝返りをした私の身体をグイっと引き寄せ、重い瞼を上げた。
窓を見ればカーテンの隙間からは、差し込む暖色の光が見える。
力強く巻き付く腕に手を添え、私は目を閉じた。
昨夜、この家のキッチンで料理をしていた時からまだ一晩だというのに、なんだか随分と経った気がする。

彼の告白はあまりに衝撃的だった。
と同時に、バラバラのピースがピッタリとはまり、彼の真実がしっかりと見えた。

情事の最中、私は彼の辛さを想って涙した。
彼は私を抱きながら、或いは口づけをしながら、
うわ言のように「俺から逃げないで」「離れていかないで」と言っていた。
何をそんなに恐れることがあるのだろう。
私はもうとっくに彼の懐に飛び込んでしまったというのに。
彼の素性がどんな人でも、私と出会う前にどんな事をしていても、彼が彼であることにかわりない。
………否。
敦賀さんは、あの!クー・ヒズリの1人息子さんじゃない!
ただでさえ私には畏れ多い人なのに…そのうえ先生の……。

彼の腕に添えた手に力を込める。

ヘレン・アーウィン
間近で見た彼女は、言葉で言い表せないほど綺麗な人だった。
服の上からでもわかるほど胸の膨らみは零れんばかりで、そこから繋がる美しい曲線。
彼女の出演映画は数作見ているが、表情・動きどれをとっても参考になる程のものだ。
……敦賀さんの恋人はそんな人ばかり…なのかな……。

はあ…と大きく溜め息を溢す。

彼の腕が巻き付くこの身体は凹凸も少なく、彼を悦ばせる技術もなく、顔は十人並で、演技は素人に毛がはえた程度のもの。
彼の気持ちは『寝言』の一件から、疑うことなく感じることができる。
だけど…こんな私じゃ、彼の心を留まらせることなどできない。
いや…今、この状態こそが奇跡なのか……。

思考がだんだんと悪い方向へと流れて行く。

すると急に巻き付く腕の力が強まり、首筋にチュッとリップ音が響いた。
そのまま滑るような所作で耳元で囁かれた。

「俺とのこと…後悔でもしてるの?」

「…おはようございます、敦賀さん」

「おはよう、キョーコ。
……質問には答えてくれないの?」

後ろから抱き締められる腕の力は変わらない。

「後悔…しているのかもしれません」

彼の額が私の首筋にうずまる。

「だって…『敦賀蓮』でも畏れ多いのに、そのうえ『クー・ヒズリの息子』だなんて。
そんなヒトが…私の恋人だなんて…」

「……そっち?」

頭を上げた彼がキョトンとした顔で呟く。
私は身体を返し、彼の方向いた。

「本当の俺や俺の過去を聞いて、逃げ出したくなったんじゃなくて?」

「逃げ出したいのは敦賀さんを取り巻くビッグネームです」

芸能界一いい男『敦賀蓮』や、『ハリウッドスターの息子』という肩書は私にとって、とても重い。

「私はただの貴方がいいんですよ」

「……敦賀蓮じゃなくても、過去にどんな事をして来ても、俺がクオン・ヒズリでも構わないと言ってくれるの?」

私は肯定の意味を込めて微笑んだ。
そして、迷子の子供のような顔から笑顔になったその唇に、私の唇を合わせた。
軽く触れただけの唇が離れた時、彼が言った。

「まあ…たとえ君が俺から本当に逃げたいと思っても、手放してはやれないから。
だから、すまないけど、逃げるのは諦めてくれ」

今度は正面から彼の腕が私の身体が巻き付いた。
そして、彼の頬が私の額と密着する。

「そうですね…。逃げるのは諦めます。
前例もありますからね」

クスクスと笑った。
どちらともなく近付く唇。その距離があと数ミリ……というところで、枕元に転がしてあった敦賀さんのケータイが鳴った。
2人の視線がそのけたたましく鳴る物に集まる。

チッという舌打ちと同時にケータイに手を伸ばし、液晶に映る名前を確認して電話に出た。

「もしも「蓮ーーー!今どこだ?!」

と少し離れた私のところまで、社さんの声が聞こえた。
その声に時計を見て驚愕した。

こんな時間!

「ああ、すみません社さん。これから用意して向かいますから」

「おいーー(泣)昨日別れる時、しっかり今日の時間確認しといただろーー?」

「本当にすみません。のっぴきならない事情といいますか、よんどころない事情といいますか…
止むに止まれぬ事がありまして」

「わかったから!今すぐ、用意してくれ!」

社さんは敦賀さんの返事も待たずに通話を終了したらしい。
私はというと、時間に驚愕した後、リビングに脱ぎ散らかした服を持って寝室に帰ってきた。
そして、ひたすら必死にそれを着る。

「……キョーコ、愛してる」

不意に彼の大きな手が私の頬を挟み込み、上を向かされた瞬間に深い口づけが落とされた。
そんな場合じゃないのに!と思っていたのに、次第に自分の考えなど溶かされるようにその口づけに応じた。



その日、社さんの雄叫びと共に、無遅刻キングに初の黒星がついたとか……。




**********



や!まだ秘密編完結ではないですよ?
もう少しだけ、お付き合いください(*^_^*)

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2013.08.29 Thu l Wish l コメント (0) トラックバック (0) l top


『兄さん』

ふと、今までの沈黙を破ってセツが静かに言った。

『ヘレンさんは待っててくれるって。
話しは終わったんでしょ?帰ろ?』

『……そうだな』

俺を見上げる彼女。
それに応えるべく踵を返し、ドアへ向かおうとした。

『待って!』

ヘレンが駆け寄り俺の腕を掴んだ。

『意地悪な言い方をしてごめんなさい。
でも、ずっと探してたの…!ずっと…ずっと会いたいと願っていたのよ…』

宝石のような大きな瞳から、ぽろぽろと滴が流れる。

『貴方が突然ある日いなくなってしまって…』

絞るような声で言うと、腕を掴んだまま床に膝をつく。

『やっと見付けたのよ!また、私の前から急にいなくなったりして欲しくない…。
お願い…連絡先を教えて?』

懇願するヘレンの両肩を持ち立たせた。

『無理だ…。だが、あと1ヵ月もしない内にわかるだろう。
俺はもう、逃げたりはしない』

そうヘレンの目を見据えて、強く言った。
そして、言い終わると同時にセツの肩を抱き、歩き出した。





飲んでしまっているので代行を使いマンションに帰る。
もちろん、彼女をこのまま帰す気などない。
終始無言の彼女。
その手をギュッと握り、キーでドアを開ける。

ダイニングテーブルにはキョーコが作っておいてくれた置いてある。
冷めてしまったそれが、今もなお良い匂いを放っていた。
そこをそのまま過ぎ、リビングのソファに座らせた。


今までも、何度となく告白しようとは考えていた。
いつかは話さなければいけないと、思っていたんだ。
ただ…その『いつか』を考えるのが怖かっただけで。

だが、その『いつか』がやってきた。

切り出し方のわからなかった俺にくれた、チャンスという名のヘレンからのプレゼント。


「キョーコ」

キョーコの隣りに座り、彼女の方を向き、膝の上においてある小さな両手を包む。

「俺の本当の名は、クオン。
クオン・ヒズリというんだ」

彼女の瞳が揺れる。

「父は…知っての通り、クー・ヒズリ。
アメリカで生まれ、15まで暮らしてた」

俺は穏やかな口調で、でもしっかりと、キョーコに話し始めた。

父を尊敬し、芝居の楽しさを覚え、父の影に悩み、すさんでいった自分。
穢れだけが増えていき、親友をどうやって無くしたのかも。
家を出た日の事、日本に来てからの『敦賀蓮』の事も。
今までの事を、包み隠さず話した。
そして、ヘレンの事も。

キョーコは下を向いたまま。
怒るでもなく、悲しむでもなく、驚くでもなく、全てを無言で聞いていた。

「……本当の俺は、カイン・ヒールやB・Jのような男だ。
だからこそ、ヘレンは俺だとわかったんだと思う」

ずっと握っていた彼女の手を離し、フイッと横を向く。

「君とのことは…夢のようなことで…
本当は、俺のようなものが願ってはいけないヒトだったんだ」

ギュッと瞳を瞑り、強く拳を握る。


そう……キョーコは、幸せになってはいけない俺に遣わされた女神だ。


俺の本当の正体を知ったからといって、手放せる筈もない。


俺は未だ反応のない彼女の唇に自分のそれを重ねた。

「…そ……でも…れから……に…ないで…」

味わうようなその行為の合間に、俺は本音を口にした。
そして、答えを聞くのが怖くて、
逃げる素振りがないことをいいことに、俺はその行為を進める。

甘い吐息と俺を狂わす嬌声に混じった彼女の涙を見ない振りをして……
俺はもしかしたらこれが最後なのかもしれない、と思いながら朝まで彼女を放す事はできなかった。


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2013.08.28 Wed l Wish l コメント (2) トラックバック (0) l top

近衛監督に呼ばれた席に彼女がいた時、マズイと思った。
彼女は間違いなく俺だと確信して近衛監督にコンタクトをとったんだと。

急の呼び出しを、もっと不信に思えばよかったんだ。
彼女が来日していることはわかっていたし、彼女がどんな子だか知っていたのに…。


どんなに後悔しても時間は戻らない。


キョーコもさぞ、混乱していることだろう。

俺はフウ…と重めの溜め息を溢しながら、彼女の後ろを歩いていた。
斜め後ろには、セツが俺の手を握りながら静かについて来る。

エレベーターを降り、明るく清潔感のある廊下をひたすら無言で進むと、彼女はひとつのドアを開け、俺達を中へと促した。
中はリビングルームと寝室が別れた、スィートルーム。
正面には大きな窓から、星屑の夜景が臨める。

彼女がこの滞在中に使用している部屋だ。

中央に鎮座したゆったりとしたソファに座るよう言われたが、俺は壁にもたれ冷蔵庫を覗く彼女を見ていた。
長話などする気はない。


『取り敢えずビールでいい?妹さんは?』

缶を片手に近付き、微笑む。

『……いや、何も要らない』

差し出された缶を掌でやんわりと押し、暗にすぐ帰るとほのめかす。


『…妹さんは、知ってるの?貴方の…』

『ヘレン!』

ヘレンの言葉を遮った俺の声が部屋に響いた。
俺の隣りに佇むキョーコがこちらを見たのが視界に入る。
だが、俺の視線はヘレンから離れられない。

『……ふーん、そうなの』

ふんわりと微笑むヘレン。

彼女は俺の言葉に、妹は何も知らないのだと察したようだ。
先程監督に呼び出されて対面した様子で、俺を『クオン』だと確信したように。
そして、この場に来たからにはヘレンに正体を隠す気はないのだという事も、わかっているのだ。


そう…昔から聡い子だった。

それまで付き合ってきた女の子は、俺に見返りという名の「愛」を求め、
俳優の息子という肩書と容姿に惹かれ、身体の欲求を満たすために身体を重ねた。
そして、そんな彼女達を俺がどんなふうに思っていたのかも。

3歳年上のヘレンは魅力的な子だった。
演技も上手く、普段はしとやかで。だが、不意に芯の強さと良い意味で粘り強さもあった。
彼女はいつも俺の事を気遣い、愛情を惜しげもなく全面に出していた。
だというのに、恋人の俺に「愛」や肩書、言葉や態度も、無理に求めなかった。
半年以上付き合っていても、彼女が別れをほのめかしたこともない。

…もちろんこの時の俺は、そんなヘレンの事を『好き』だと……思っていた。


15歳だったあの時、俺はヘレンに別れを言うという頭もなく…
日本へと来たのだ。



『ヘレン……
この子は、俺の恋人だ』

キョーコの肩を抱き、頭頂部に軽くキスを落とす。
ヘレンとの仲を不信に思って今後に悪影響を及ぼすのは火を見るよりも明らかだ。
愛おしいと思うこの子を、失うわけにはいかない。

『恋人…。そうなの』

彼女は、どうでもよさそうに言った。

『今までの期間に彼女がいなかっただろうとは思ってないわ。
知ってるでしょ?私わりと気は長いの。
妹さんの気が済むまで、待ってるわ』

『この子と別れる気はない』

微笑む彼女とは反対に、俺の言葉が低く響いた。

『貴方に別れる気がなくとも、いつものように彼女から別れの言葉が貰えるわよ』

かわいそうに…と首をかしげながら言うヘレンに無性に腹がった。

そうだ…いつだって俺はおびえている。
今までの彼女のように急に「他に好きな人ができた」と言われることを。
またこの間のように「別れたい」と言われることを。

いまだ一言も発さないキョーコの肩を、強く抱いた。



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2013.08.21 Wed l Wish l コメント (2) トラックバック (0) l top
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