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「…結婚…しようか」

突然の言葉に、私は理解ができなかった。
こちらを向いた美貌の眼差しは真剣で、ますます意味がわからない。


結婚?

何を言っているのだろう?

敦賀さん…自分が結婚してること、忘れてるんじゃ……。

「あの…敦賀さん?気持ちはとても嬉しいですが…」

そう言ったところで彼の良い匂いに包まれた。
その抱擁はきつく、私の骨が軋む程のもので。

「あ…敦賀さん…!痛っ…!」

「結婚しよう…キョーコ。
ずっと一緒にいたい。君は誰にも渡さない……!」

耳元で聞こえるその声は、心なしか震えているように聞こえる。


だけど…結婚は流石にできないでしょ?
日本では重婚も、一夫多妻も認められていないんですよ?

どう考えても…物理的に無理ではないですか?


「いや…あの…結婚は、無理じゃないですか?」

「なんで?」

「だって…奥さんは…?」

「え?ああ…きっと喜んでくれるよ。
『お前も一人前だ』なんて言うんじゃないかな?」

一人前…?
出前じゃないんだから…。

そっか…喜んで……は?

「喜んでくれるわけないでしょう!」

人がマジメに話しているのに、彼のありえない言葉に怒りが湧き起る。

夫に他に女がいる事だってショックなはずなのに、結婚なんて…!
喜ぶわけないじゃないですか!

「だいたい!日本では重婚も認められてはいないし、一夫多妻制でもないんですよ!
結婚なんてできるわけないじゃないですか!」

抱き締められていた腕の力が弱まり、私は彼を見上げながらまくしたてる。

「奥さんがいるんだから、私達はもう終わりです!
奥さんが帰って来たら大変ですから、私はもうかえr「キョーコ」

黙って聞いていた敦賀さんが、私の言葉を遮った。

「俺…結婚した事…ないよ?」


………………え?


「俺は独身で、これからキョーコが俺の奥さんになるんだよ?」

「は…?何を…言ってるんですか」

キョトンとしている私を横目に、彼は突然笑いだした。

「君が知ってるって言ったから、本当に知ってるものだと思ってた。
キョーコ、勘違いだよ。
俺の知ってる『おくさん』は気象予報士の『王来王家(おくおか)さん』。
通称『おくさん』」

ああ!夕方の天気予報のひと!おくさんですね!

「言ってなかったけど…俺、普段は民間気象会社で働いてるんだ」

「民間…気象会社…?」

私は今まで知らなかった仕事の話に、ただただ聞き入った。

おくさんは大学の先輩で、昔からお世話になっている人なんだとか。
そのおくさんが、朝早い時間の天気予報の天気キャスターを探してて、気象予報士の資格もある敦賀さんに声掛けて来たとか。
外見的にも、仕事に真面目なところも買われて、しつこく誘う先輩に「本当に朝早い時間だけ」って条件でテレビに出る事になったこととか。
午前4時には予報の仕事が始まるから、いつも私の部屋に来た日はそのままテレビ局に行っていたこととか。
テレビに出るようになったらたまに一般人に声を掛けられるようになったから、外を歩く時は帽子に眼鏡は必須になったとか。
テレビの事はなんだか気恥ずかしくて、私にあえて言わなかったとか。
テレビの予報の仕事が終わると、会社に戻って普段の仕事をしているとか。

今までの言動が明らかにされ、私はへなへなと座りこんだ。

「そうだったんですか……」

とんだ勘違いだ。

私はずっと彼は結婚していて、あの綺麗な奥さんと暮らしているものだと…あっ!

「先日の森林公園に一緒にいた女性は?」

「え?キョーコもあの日、森林公園にいたの?
あの日は森林公園の花が見頃で、次の日の予報をそこでする事になって。
下見と打ち合わせに行ったんだよ。
女性の顔、見なかった?」

フルフルと横に首を振る。

「一緒にいた女性はキャスターの○○さんだよ」

「え!あの!」


本当に、全て仕事だったんだ。
だから大荒れの日の前日、ドタキャンだったんだ。

奥さんは…最初から、いないんだ……。


座りこんだ私をまた、今度は優しく彼が抱擁する。

「ごめん、知ってるって言ってたから本当に知ってるものだと思って俺、ちゃんと説明しなかった」

そう言い優しく口づけをする。
その甘さに涙が出そうだ。


「改めて…言うよ?

俺と結婚して?

さっきの男の所になんか行かせない」


そういえば…村雨さんをレストランにおいて勝手に出てしまった。
後で謝らなくちゃ。
ついでに告白の返事もしなくては。


「返事、聞かせてくれる?」

真剣な眼差しに、愛おしさが積もる。


奥さんがいない、私だけのシンデレラ。

私はとびきりの笑顔と共に彼への愛情を言葉にした。






**********





『シンデレラ』のお話は完結です。
なんだか最後詰め込み過ぎましたか。
まあ、取り敢えず一区切りできて良かったです(*^_^*)




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2013.05.28 Tue l シンデレラ l コメント (7) トラックバック (0) l top
「私…彼氏ができました。
今、その彼と食事に出ているので…今日は会えません」


以前「別れ」言った時のように、静かに怒るのか
あっさり別れの言葉を言われるのか
それとも、そんな事はどうでも良いとスルーされるのか

私はそんな事をグルグルと考えていた。

「今……どこにいるの?」

「え?今…食事に……」

「だから…今、どこ?」

「あの…○○ホテルのレストランに……だから…」

「そう…わかった」

抑揚のないその言葉を言うと、私の返事など聞きもしないで通話は切れた。

え?これは…最後の選択肢の、スルーされたのかしら。
まあ…彼は奥さんがいる身で私とも関係しているわけだし、私に彼氏がいようがいまいが関係ないのもしれない。



「キョーコちゃん、急用?」

テーブルに戻ると、途中で席を立った私を心配してくれる村雨さん。

「いえ、大丈夫です。
席を立ってしまって、失礼しました」

「大丈夫そうなら、メインきてるし食べようか」

「はい」


敦賀さんには「彼氏」と言ったが、先日告白されたもののまだ返事はしていない。
村雨さんと食事したりするのは楽しいけど……
敦賀さんと一緒にいる時のような胸のたかぶりはない。

本当は…また怒ってくれると思っていた。
私に彼氏ができたと聞いて、もっと反応があると思っていたのだ。


……結局、どれもこれも上手くはいかなかった。

彼と距離をおいて、彼への気持ちが薄れる事も
彼以外の人を好きになる事も
彼氏ができたと言って、別れ話をする事さえも

にこやかに村雨さんとの食事も進み、デザートがテーブルに置かれた時、
不意に後ろから知った声が降ってきた。

「キョーコ、迎えに来たよ」

振り返ると、帽子も眼鏡のしていない、キラキラしたこの上ない笑顔の御人。

「な…!なんで……!」

「?
キョーコちゃん、知り合い?」

その問いに、敦賀さんは私に向けた視線を村雨さんに。

「やあ、キョーコがお世話になったね。
悪いけど、キョーコは連れて行くよ?」

彼は言い終わると私の腕を掴み、強い力でレストランを後にする。

「ちょっ…敦賀さん?
村雨さんが…!」

なおも無言で歩く彼。
地下に着き、駐車してあった彼の車に強引に乗せられる。

着いたのは私の部屋ではなく、知らないマンションだった。

車から降りたところでまた腕を掴まれ、なかば引きずられるように連れてこられた先は最上階のワンフロア。
彼の手に持ったカードキーで開錠されるドア。

「まさか…ここは……敦賀さんの家じゃ……」

「そうだよ?ゆっくり話がしたいからね」

暗い部屋にライトをつけて、サクサクと私を引きずりながら通されたリビング。


敦賀さんの家?

とんでもない!

ゆっくり話?

できるわけないでしょう!

奥さん…今はお留守のようだけど…
ゆっくり話ができる場所じゃないし、私が上がったりしていい場所でもない。

「あの!話ならここではなく、違う場所にしましょう!」

「いや。
ここで、話をしよう」

向かい合うように私をソファに座らせると、彼は予想を遥かに超える言葉を発した。




**********




すみません、日にち空いたのに進んでませんね。
次回で終わる予定です(*^_^*)




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2013.05.27 Mon l シンデレラ l コメント (2) トラックバック (0) l top


それからも、敦賀さんとの関係は続いた。


彼はいつものように部屋へ来て、私を愛してくれる。

少なくとも……このひとときは、そう感じる。
私に幸せな時間をくれる。


そんな関係が続き、私の罪の意識が薄れた頃……現実が訪れた。




**********



それはある日曜日の午後。

私は良い天気だったから、少し離れた森林公園に1人佇んでいた。
本当はこのところのモヤモヤを払拭するため、パワーをチャージしようと思って。

「フフフ、なんだか元気が出てきたー!」

人が殆んどいない、木がうっそうとした所を背伸びしながら歩く。

ニコニコしながら歩いて行くと、一画に数人が集まっていた。

何かしら?

そう思いそちらを見た瞬間、私の息が「ヒュッ」と止まった。

数人の中の1人に、敦賀さんを発見したからだ。
そして、その隣りには……女性がいた。

顔はちょうど角度で見えないが、長い髪に、センスの良いスーツからスタイルの良さがうかがえる。
何やら真剣に話をしていると思うと、時折笑顔を交わしているようだ。


……あのひとが、奥さん?


急に自分の心臓の音が大きく聞こえた。
手が震える。

私は初めて、理解した。

彼の奥さんは幻や想像の人物ではなく、実在するのだと。
その奥さんも、心があって…身体もあるのだと。

「なんだ……敦賀さん、奥さんと仲良いんだ…。
ちゃんと大切にしてるじゃない」

いや、もともと大切にしてるんだ。
どんな日でも、彼はきちんと同じ時間に帰っていたじゃない…奥さんの元に。


彼は…あの人のモノなんだ……。



私は、そこから逃げるようにして帰った。

もう…本当に終わりにしよう。
やっと本当に現実が見えた気がした。

彼が前みたいに「別れない」と言っても、離れよう。
奥さんから彼を奪うのは、もう終わりにしよう。




**********



その日から部屋に来たいという彼からの連絡は、用があると言って全て断った。
まずは私の心を整理するため。
そして、彼と離れる準備をするため。

離れないといけないと思う気持ちと、彼との繋がりを失いたくない気持ち。
本当は、『その日』がこない事を願っていた。
けど、そんな願いとはうらはらに、わりと早く『その日』はやってきた。




その日も、私は同僚の村雨さんと食事に来ていた。

村雨さんとは仕事が終わって、毎日のように2人で会っていたのだ。
このところ元気がなかった私にと食事に誘ってくれたのがきっかけで。

話の上手な村雨さんとの食事はいつも楽しかった。
早く彼への気持ちを忘れたかった私は、喜んで毎日のように誘いを承諾していた。

スープを口にしているとふいに、

RRRR…RRRR…

私のケータイが鳴った。
表示には彼の名前。
それを見ただけで私の心が騒ぎ出す。
…やっぱり心を揺さぶるのは彼なのだと再確認してしまう。


私は目の前の村雨さんに「ちょっとすみません」と言って席を立った。

店の迷惑にならない所まで行き、通話を押す。

「はい、最上です」

「キョーコ?俺だけど、今日行っていい?
最近会えていないし……」

この人の声に、自分の手が震えるのがわかった。

「キョーコ……会いたい」

囁くようなその声に、胸が鷲掴みされたように痛んだ。
言わなければいけない。
震える手で持つケータイを持ち直し、努めて明るく、私は敦賀さんに伝えた。


「私…彼氏ができました。
今、その彼と食事に出ているので…今日は会えません」







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2013.05.23 Thu l シンデレラ l コメント (4) トラックバック (0) l top
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2013.05.22 Wed l シンデレラ l top

疑問が確信に変わったのは、彼との付き合いが半年を過ぎたころだった。


その日、私は浮かれていた。

敦賀さんが次の日仕事が休みだと言うので、映画を観に行くことになったのだ。
久々の外出デート。
まだ前日だというのに、それだけで私はまるで子供みたいにはしゃいでいた。


明日は、私の部屋まで彼が迎えに来てくれる。
あいにく明日の天気は最悪で、この時期には珍しい大荒れの予報だけど…。
行くのは映画。
雨が降ろうが槍が降ろうが、全く関係なく楽しめる。

彼はきっといつものように帽子を深くかぶり、眼鏡にシンプルな装いで。
それでも隠せない長身と整った顔立ちが、ニコリと私に微笑んでくれるはず。

私は滅多にない彼との外出に心踊らせていた。
そんな最中の電話だった。

「ごめん、キョーコ。
明日は都合が悪くなったんだ。今度埋め合わせするから、本当にごめん」


正直、すごくショックだった。

だから……いつもなら言わないようなことがつい、口から出てしまったのだ。

「……何の都合ですか?」

「ああ…仕事だよ」

本当は仕事ではないのだろうと思う。
このところの疑問が膨らむ。

明日は『奥さん』と過ごすのだろう。

「私…知ってるんですよ?
本当は…奥さんに付き合うんですよね」

私は、そんなバカなことあるわけないと否定して欲しいと思っていた。
だけど…返ってきた言葉は

「キョーコ……知ってたんだね」

やっぱり!

予想していたとはいえ、私の頭は真っ白になる。

「隠してて、ごめん」

敦賀さんが小さく呟いた。

後の会話は覚えていない。
ただ、頭の中に残っているのは…彼が妻帯者だという事実だけだった。


私は彼が好き。
手放したくはない。

でも……


私はその日と会う予定だった次の日、ひたすら泣きつくした。


そして彼は3日後、私の部屋にやって来た。

私はもちろん別れ話をするもんだと思っていた。
知ってしまったからには別れるしかない。
彼もそのつもりで来たのだと。

だけど、違った。

彼は何もなかったかのようににこやかに機嫌良く部屋に入って来て、
いつものように夕飯を食べ、
そして…優しいキスと共に、まさかの身体まで求めてきたのだ。

ソファに押し倒される形になり、身体を撫でまわす手を掴み、首を横にし唇を離す。

「な!何をするんです!やめてください」

思い切り彼の胸を押し、抵抗する。

「もう私達、終わりです」

目尻に涙が溜まるが、今は泣いている場合ではない。

彼を見ると最初は驚いていたが、オーラが一変した。
周りの温度が明らかに下がった気がする。
まるで大魔王のような表情に、私は恐れおののいた。

「俺は別れる気はないよ。
君を離してもあげない」

そう言うと、噛み付くような口づけと共に引きちぎるように服を剥ぎ取り
彼は強引に、執拗に、私を貪った。


私は快楽に支配されながら、奈落へと落ちていった。



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2013.05.14 Tue l シンデレラ l コメント (4) トラックバック (0) l top

彼とのお付き合いは順調だと思っていた。


会社員だと言っていた彼は仕事が終わるのが不規則で、会う時はいつも私の部屋。


「もうそろそろかな?」

夕飯も綺麗に盛り付けた。
すぐに入れるようにお風呂の用意も万端。
あとは彼が来てくれるだけ……。

高鳴る胸に手をあて、一・二度大きく呼吸をする。

すると部屋に響くチャイムの音。

私は素早く玄関を開けた。
本当は飛びつきたいけど、そんな破廉恥な事できる訳もなく、待ち人を招き入れた。

「こんばんは、敦賀さん」

「こんばんは、キョーコ。
遅くなっちゃってごめんね?」

「お仕事お疲れ様です」

会えた事が嬉しくて、自然と顔が綻ぶ。

「先にご飯でいいですか?」

「うん、いつもありがとう」

既に並べられた食事を二人で囲み、和やかに過ごす。

そして、食後のコーヒーの後は甘い時間がやってくる。



「キョーコ……」

そう優しく耳元で囁いて、とろけるような口づけを与えられ
次第に深く、いつの間にか溶けるような感覚に酔わされる。
その唇が離される頃には私の息もあがり、首筋へと移動する口づけに甘い吐息が漏れた。
長くて綺麗な指とねっとりと蠢く舌が私を翻弄し、やがて激しい抽送になる。
押し寄せる快感に身を委ね、お互いが深いところで繋がったように……この時だけは感じる。

「ずっとキョーコとこうしていたい…」

お互いの温もりにまどろむ。
私は彼の腕の中で微笑んだ。

「私もです」

逞しい胸に頬をつけ、ギュッと私も抱き締める。


このままずっと一緒にいたい。
朝まで抱き合って一緒に眠りたい。


でも……
その願いは叶わない事を、私は知っている。


それに気が付いたのは、敦賀さんとのお付き合いが深くなったあたりから。


彼は必ず同じ時間に帰って行く。
決して泊まることは無い。


額に、左の頬に、右の頬、そして唇に、彼が優しくキスをした。

長いようで短い時間は無情にも終わる。

敦賀さんはベッドから出ると脱ぎ散らかした服を着て、また私にキスをした。

「キョーコ…好きだよ。
また連絡する」

「……はい」


今日も敦賀さんは、同じ時間に帰る。

まるでシンデレラのようだと思った。
硝子の靴を残してくれない…シンデレラ。

メルヘン思考の私でも、なんとなく気が付いていた。

同じ時間に帰る彼。

仕事だと言っていたけど……

待っている女性(ひと)がいるんだと思う。


たぶん……『奥さん』がいるんじゃないのかな……。


他にもなんだか怪しいな…と思う事がある。
彼は外に食べに行ったりデートする時、必ず深く帽子をかぶり眼鏡をかける。
なんとなく変装しているのだと思う。
仕事も詳しくは教えてくれないし。



本当に……彼に『奥さん』がいるなら

私は……



私は1人、温もりの残るベッドで痛む胸を押さえて、固く目を閉じ眠った。

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2013.05.13 Mon l シンデレラ l コメント (2) トラックバック (0) l top
今回もパラレルです。
まだ話を詰めてないので、この先どうなるか……。










いつも、感じていた。

本当はわかっていた。

彼にはもしかしたら……。




【シンデレラ】



今日は部屋に帰ってくれるだろうか……。

帰って来てくれるかもわからない彼の為に料理にいそしむ私、最上キョーコ23歳。

最後に帰って来たのはいつだっただろうか…。

そう考えながら、今日の夕飯の仕上げに取り掛かる。


そして、その日珍しく帰って来たショータローに………


捨てられた。



ショータローとは幼馴染みで、数えるのも面倒なくらいの長い付き合いだった。
もちろん、結婚とかを真剣に考えていた訳でもないが、この先もずっと一緒にいるものだと思っていた。
たとえ…他の女の子に寄り道しても、最後は私のところに帰って来る…そう確信していた。

私は……本当にバカだったんだ……。




「なーにが、色気がないよ!
家政婦?知ってたわよ!あんたが私の事そう思ってたことくらい!」

私は珍しくお酒を飲んでいた。
居酒屋に1人で赴き、適量をはるかに超える量を摂取し、気分が高揚しきったところで店を後にした。

夜道に管を巻きながらフラフラと歩く姿は、よく見る定番の『中年サラリーマンの酔っ払い』そのもので。
次第に胸から込み上げる不快感に顔をしかめ俯く。


「一緒に来てくれないか?」と誘われて、京都からこの知らない土地に出て来た。
生活を維持する為に身を粉にして働いて来た時間と労力を返して欲しい!!

そう熱い気持ちが込み上げてきたのと同時に、胃から込み上げてきた熱い物が勢いよく口から出てきた。

そして、運悪く前から歩いて来た人に、その熱い思いが向かった(掛かった)。


その運の悪い人、敦賀蓮さん27歳との出会いは……
きっと彼にとっても最悪だったんだろうと思う。


いきなり前から来た女に◯◯を掛けられたのに、文句も言わずに「大丈夫?」と言いながら背中をさすってくれた彼。
お礼と謝罪をする為に連絡先を聞き、部屋まで送ってもらった。

翌日、通りがかりの知らない人に何て事を!!と驚愕したのは言うまでもない。

後日、お礼と謝罪の為にと菓子折り持って会ったカフェ。
そこから何故かいろいろな話が盛り上がり、その後も頻繁に連絡を取り合うようになった。

そして3ヶ月後、彼と付き合うことになった。



彼は私に命令したり、強要したりしなかった。
私の希望を聞いてくれたり、
私の意志を優先してくれたり。

彼はたくさんの『初めて』もくれた。

手を繋いで歩いたり、
優しく抱き締めてくれたり、
甘いキスをくれたり、
……身体の濃密な快感も…

幸せな感覚、満ち足りた気持ちも、全て彼に教えてもらった。


まだショータローに捨てられて数ヶ月だというのに、私は既に敦賀さんに夢中だった。


私は性懲りも無く、彼とずっと一緒にいたいと……思っていたんだ。



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2013.05.08 Wed l シンデレラ l コメント (2) トラックバック (0) l top


テレビを見て、俺は衝撃を受けた。

それは、ずっと想い続けてきた彼女と
俺では無い男の、熱愛報道だった。




最上キョーコは事務所の後輩だ。

仲の良い先輩・後輩として親交して来て、いつかこの想いを…と思っていた。
いつかと思っていたが為に、想いを伝える事なく今、この事態だ。

ダークムーンを皮切りに、幾つかのドラマに出演した彼女は瞬く間に名女優として華を咲かせた。

それと同時に、ライバルが多いのもわかっていたが…
彼女の俺に向ける笑顔や、いい頻度で共演。
そんな事で、彼女に1番近い男は俺なのかも…と思ってしまっていたんだ。


正直、ガセな事を祈りながらケータイに彼女の名前を表示させ、通話ボタンを押す。

数回のコール音が途切れ、彼女の鈴のような声が聞こえた。

「もしもし、こんにちは。
どうされたんですか?」

「て…テレビの報道を見て……」

俺は自分で思っているよりも動揺しているのか、それを言うのが精一杯だった。

「ああ……はい。
気を付けてはいたんですけど…撮られちゃったみたいで…」

「……って事は……
アレは、事実?」

俺の咽がゴクリと鳴った。

「……はい…」


頭が真っ白になるというのは、こういう状態なのだろうか…?


「い…いつ…から?」

俺はやっと声を絞り出した。

「あの…半年前から…です。
すみません、いつもお世話になっているのに…直接報告できなくて…」


………そんなに前から……。

頭の中だけじゃなく、目の前まで真っ白になってきた。


「全然知らなかったよ…。
交際…順調なんだ…」

「フフフ、こんな話恥ずかしいですね。
交際は…順調です」

微笑む彼女が目に浮かぶ。

「…そう…か。お幸せにね」

それだけ言うと、俺は彼女との通話を切った。


こんな事なら……もっと早く告白すれば良かった。




RRRRR…RRRRR…

ケータイの着信。
本当は出る気力も無いが…出ない訳にもいかない。
通話ボタンを押せば、けたたましい声がした。

「リーダー!テレビ!テレビ!
あれ、本当なん?」

「ああ……今キョーコちゃんに確認して、本当だって。
キョーコちゃん、敦賀さんと半年前から付き合ってるらしい……。」

「……リーダー……元気出しいや?」

「……うん……。」


電話を切って、深い溜め息をついた。


快晴の空とは裏腹に

今日は俺…石橋光の失恋記念日になった。


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2013.05.03 Fri l 短編 l コメント (8) トラックバック (0) l top
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