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ヘレンさんがアメリカへ帰ったのは、それから2日後のことだった。
滞在中ヘレンさんは、近衛監督に何度もカインへのコンタクトを頼んでいたようで。
敦賀さんや社長の言葉通り、監督はやんわりと断ってくれた。
お陰でその後彼女と敦賀さんは会うことなく、渋々といった感じでヘレンさんは帰米したのだ。



「敦賀さん、今日はスペアリブのスイチリエスニック煮込みです。ちょっとエスニックなお味にしてみたんです」

にっこりと微笑む私に彼が近付き、少しかがむとこめかみにキスをした。
テーブルには照り光るスペアリブに海老と帆立のセビーチェ、彩りの鮮やかなサラダやキノコのシチューが置かれている。
香しい匂いに、作った私のお腹が鳴る。
空腹中枢の壊死した敦賀さんには、この恥ずかしさはわからないでしょうね…うう。

2人で席に着きにこやかに食事をしていると、やっと忙しくも平穏な日々が帰ってきたと実感する。
食べ終わった後のコーヒータイム。
その憩いのひと時に、私は小さな声で聞いた。

「敦賀さん本当は、ヘレンさんと別れたくなかったんじゃないですか?」

「はあ?」

本当に予想外だったのか、危うく口を付けていたコーヒーを吹き出しそうになった彼。

「君は…まだ俺の事がわかってないのか…?」

瞬時に下がる外気と、大魔王の雰囲気。

「違います!違います!」

両手をブンブンと大きく振る。

「何だか…ヘレンさんは特別だったんじゃないのかなって…」

「やっぱり、さっぱりわかってないじゃないか」

グッと私の腰を引き寄せ、ソファに身体を沈めさせた。
その表情は冗談のような軽いものではなく、あくまで真剣だ。

「だって…日本へ発つ時、敢えて別れも言わずに、なんて。
本当は別れを言いたくなかったのかな…って」

普段の彼から、疑うべくもない愛情をもらっている。
だが、それは『今』だからで。
昔は彼女が好きだったのかと思うと、胸の奥がギュッと何かに掴まれたかのように痛くなる。
万人を虜にする容貌と演技力、魅惑の身体と敦賀さんへの愛情。
世界中の誰に聞いても、誰しもがヘレンさんを推すだろうだろう。
だって…本当に魅力的なひとだもん。
いずれは敦賀さんも私から去って行ってしまう。そうしたら彼女の言う通り、彼はヘレンさんのところへ帰ってしまうのではないだろうか。

『今』の愛情は、私も信じている。
でも………この内からくる不安を、どう言い表せばいいのかわからなかった。

怒りに燃える彼の瞳を見ながら、この気持ちをこれ以上怒らせずに聞いてもらう方法を考えた。
『寝言』の件から、何でも話そうとお互い約束したのだ。

ふと、怒りの視線は影をひそめ、彼が横を向いた。

「敦賀さん?」

「……忘れてたんだ」

「何をですか?」

彼は逸らしていた視線を戻し、哀しい笑みを浮かべ言った。

「俺の特別は君だけだ。
ヘレンは特別じゃない。他の誰も、俺の特別にはなれない。
これからも、ずっと」

柔らかな唇が触れ合う。
軽い触れ合いの後、敦賀さんは話を続けた。

「あの時は、身動きすらとれなくて…
社長の言葉に、とるものもとりあえずアメリカを発った。
そんな中、俺は恋人だったはずのヘレンの存在なんて…忘れてたんだ」

酷い男だろう?と言いながら、自虐的な笑みが向けられた。

「昔の俺の中の『恋人』なんて、その程度でしかなかった。
それが普通だと思っていた。キョーコに恋するまで」

敦賀さんの大きな両手が私の頬を挟み込む。

「この歳で…って思うかもしれないけど、俺の初恋は君なんだ」

ああ、そうだった。
鶏の『坊』に言っていた敦賀さんの言葉を思い出す。
彼は私に、しっかり「恋とはなんぞや」と問うていたではないか!

ーーーーーーー!!

私はここである事に気が付いてしまった。

彼がせっかく、私だけが特別で、ヘレンさんをはじめとする以前の恋人達に恋心などなかったと、感動すべき甘い言葉を贈ってくれているというのに。
私ときたら、今までの胸の疼きもすっかり吹き飛んでいた。


頬を包み再度唇を重ねようとしている敦賀さんから飛び退く。
そのままソファの下に正座し、指を揃え、額がラグに擦れるほど深々と頭を下げた。

「す!すみません、敦賀様!わたくし、まだ言ってなかった事がございます!」

突然のことに茫然としている敦賀さん。
その彼が、この後の私の言葉に驚愕と羞恥で絶句したのは言うまでもありません。




「あの…鶏の中身は私です」



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2013.09.04 Wed l Wish l コメント (2) トラックバック (0) l top

コメント

キョコさんの告白
蓮さんの顔がほんとみたいです!!(爆)

っていうか。

蓮さん。

女性を傷つけないのは大事ですけど、ヘレンさんの未練タラタラ状態からすれば、今後の為にも「俺は恋人だったはずのヘレンの存在なんて…忘れてたんだ」ことを、告げるべきだったかもしれませんね。

( ̄▽ ̄;
2013.09.04 Wed l 魔人. URL l 編集
魔人 様
コメントありがとうございます♪

フフフ、次回が秘密編の最終話の予定です。
ヘレンさん再登場です(*^_^*)


2013.09.05 Thu l 風鳥. URL l 編集

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