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いつもの時間のいつもの場所に…

俺は今日も1人揺られている。



彼女のいないこの風景はなんとも味気なく、太陽の光を失ったかのようにくすんで見えた。
窓の外を見ればいつもと変わらぬ景色だというのに、いつもこの場所にいたヒトがいない。

まるで彼女とのあの時間が、夢だったのではないか…と思えるほど。
最上さんに会えない時間が俺を蝕んでいた。

こんな事なら、警戒されても初めて話したあの日に家まで送ればよかった。
せめてケータイ番号くらい交換しておけば…。


俺はまだ……彼女のことを全然知らない。
知っているのは、いつも乗って来る駅の名前と一緒に降りる駅、彼女の通う学校の名と…アイツ
……それに、俺に向ける彼女の笑顔。
鈴がなるような可愛らしい声に、背筋の良いしなやかな肢体。
そして、俺を狂わすほのかに香る彼女の匂いだけ。

溜め息と共にフイッと窓から視線を逸らすと、1人の女の子と目が合った。
女の子は赤く顔を染め、下を向いた。
赤いリボンに濃紺のブレザー、チェックのスカートを身に着けている。
彼女の通う、LME学園の制服だ。
その制服を見ながら、ふとあの日の事を思い出した。

その日、俺はどうしても彼女を諦めることが出来ず、学校を早退して彼女の学校まで気が付いたら来ていた。
目の前の学園の門は、赤茶のレンガ造りが両側に据えられ、黒に塗られた鉄が綺麗な曲線で描かれた堂々としたものだった。
駅に向かうなら、きっとこの門を使うはずだ。
その門の斜め向かいにある本屋で、適当な本を片手に彼女を待つことにした。

暫らくすると、そこから賑やかに同じ制服を着た人達が出て来る。
その中に彼女を見付けた。
俺は手にした本を元の位置に戻し、先へと歩く彼女を追う為、本屋を出る。
そこで見たものに、俺は目を見開いた。

「おい、キョーコ。
最近弁当の具が適当過ぎだろ!あんま玉子入れんなよ」

「はあ?毎日作って貰えるだけ感謝しなさいよ!
玉子だって、あんたの嫌いな甘いものじゃないでしょ?」

「まあ、昔からお前の弁当の方がおふくろのよりは食えるか」

「だったら、文句言わずに食べなさい」

彼女の肩が男に触れる程の距離で、2人は並んで歩いていた。
その周りには他の誰も立ち入れない空気を作っていて、
聞こえてきた会話の内容に、俺は衝撃を受けた。

立ち止まった俺は、ただただ前を歩く2人を見送ることしかできなかった。


ガタンと車内が揺れ、ハッと顔を上げる。
窓の外と見れば、もうすぐ降りる駅に着くようだ。
俺は開いたドアからゆっくり出て、足早に改札へと向かう人混みに置いて行かれた。



初めて彼女を見かけた時はまだ、桜が散るころで…
真新しい制服にどことなくギクシャクして、慣れていないとひと目でわかるほど車内をきょろきょろとしていた。

太陽がギラつく季節には、彼女と同じ空間にいることをこっそり楽しみにしていて、
夏休みにも彼女に会えないかと、用もないのに学校の近くの図書館に行ったりもした。

紅葉が始まるころ、彼女と初めて言葉を交わした。
この上ない幸福感と、胸が潰されるような切なさを彼女が教えてくれた。

吐く息が白くなり、会えない期間が俺自身を凍えさせる。
もしかしたら今日は彼女に会えるかもしれない…
今日こそは偶然でも、または彼女の気まぐれでも何でもいい…
会えるかもしれない……と毎日同じ車両の同じ場所に座る。

そして、新芽が芽吹く今日……俺は高校を卒業する。


今日が最後の日、だった。
卒業すればもう、あのいつもの電車のいつもの場所で、彼女と会う機会は無くなる。
彼女との接点が無くなってしまう。
いつか会えるかも、という儚い夢も…今日、終わりを迎えたんだ。


式は厳かに進み、答辞を読む自分の声が無機質にホールに響く。
別れと旅立ちの門出が、まるで他人事のように目の前を過ぎて行く。


……もう、偶然でも会う機会がなくなるのなら

最後に足掻いてもいいんじゃないだろうか。

彼女に、この想いを……


先生や友人が別れを惜しむ中、俺は門へと走り出した。
途中、何人もの女の子が声を掛けて来るが「ごめん、急いでるんだ」の一言でかわす。

風がサラリと吹き、門の片隅に目をやった俺は足を停めた。
ドクンと大きく鼓動が鳴った。


彼女だ。

フワリと風に揺られた制服のスカートを押さえ、頬にかかった髪を耳に掛ける姿に、胸がうるさいくらい高鳴る。
彼女がこちらに気付き、俺の方を向いた。

時が止まる。

はにかみ、ゆっくりと俺の前まで来た彼女。

「あの…敦賀さん、ご卒業おめでとうございます」

「……ありがとう」

数ヵ月振りの彼女はやはり可愛くて、その声は胸を震わせる。

「あ…あの言葉を、聞きに来ました」

そう小さな声で呟くように言い、下を向く彼女の顔は赤い。

「最上さん」

俺の声で彼女は俺を見上げた。
腕を引き寄せ、バランスを崩した彼女をいともあっさりと俺の胸に閉じ込める。
そのままギュッと華奢な身体を抱き締めた。

「君が好きだ」

身動きしない彼女を、俺は更に力強く抱き締め続けた。

「好きなんだ」

二度目の言葉は囁くように。


見上げれば
色を失っていたはずの空は、澄みきった青い色をしていた。


大人しく囲まれた彼女の腕がおずおずと俺の背中を掴んだ時、
彼女は小さな声で囁いた。







これは、揺れる電車の中の
いつもの時間の、いつもの場所で…
名も知らぬ少年に小さな想いを抱いた少女と、

名も知らぬ少女と同じ空間を過ごす小さな時間を心待ちにしていた少年の、

小さな恋のお話です。






**********




『空の青』という名の青春ストーリーは終わりでございます。
まず先に、この季節にこんな季節感のお話を盛り込んで本当にすみません。卒業シーズンにUPするべきお話ですよね…?

そして、補足です。
「あの言葉を聞きに」のくだり、実はキョーコさんも蓮さんと同じ思いだった事で、
今日蓮さんが卒業、接点が無くなる、もう会えなくなる、告白してお決まりの言葉を蓮さんから貰おう。
で、「あの言葉を聞きに」になったんですが…。
その説明もなくこの言葉じゃ読み手様はわからない、でも!どうしても告白は蓮さんにして欲しくて(*^_^*)
ここで補足とさせて頂きました。

このての青春ラブは正直言いますと、尚×キョの方が設定上浮かぶんですが……
完全蓮キョ派のワタクシは、そんなカップリングじゃ嫌!と思いながらカタカタさせて頂きました。
SSの予定だったお話をここまで応援して頂き、本当にありがとうございました♪


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2013.09.12 Thu l 空の青 l コメント (4) トラックバック (0) l top

コメント

ああ、楽しかった!
特に第4話が好きです!!

(っていうか、大好きです)

こうなったら!!!!←

もぉ!! ←

魔人用事を思い出しましたので、失礼します。←あやしい
2013.09.12 Thu l 魔人. URL l 編集
魔人様
コメントありがとうございます♪

最後まで青春してましたでしょうか…?
うう…自信ないっす(泣)
でも、今回の4話が一番苦しかったので気に入って頂けたのなら本当に嬉しいです(*^_^*)

そしてあちらの方にもいらして頂いてありがとうございます!

最後まで読んで頂き、ありがとうございました♪

2013.09.12 Thu l 風鳥. URL l 編集
素敵でしたー!!
最後はキョーコちゃんが勇気を振り絞って会いに来たんですね!!
ほのぼの青春〜!!な感じがとってもよかったです☆
2013.09.12 Thu l 風月. URL l 編集
風月 様
コメントありがとうございます♪

良かったです~ちゃんと青春してましたか?!
コメント本当に支えになりました。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました☆
2013.09.12 Thu l 風鳥. URL l 編集

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